『カードキャプターさくら』は、CLAMP作品の中でも特に人気の少女漫画作品です。
『なかよし』にて1996年~2000年に連載された「クロウカード編」「さくらカード編」は全編アニメ化され、
その3年後を舞台とし2016年~2024年に連載された「クリアカード編」も人気を博しました。
キャラクターやストーリーの人気もさることながら、洗練された衣装デザインも人気で、連載終了したというのに2025年にはオリジナルブランドまで立ち上げるほどの人気っぷり。
しかし、そんな『カードキャプターさくら』の恋愛観が令和に合わないのか、物語冒頭で「顔が引き攣った」と言うポストがX(旧Twitter)に投稿されるや否や話題を呼び、賛否両論が展開されています。
『カードキャプターさくら』の「顔を引きつらせる」恋愛観
話題になったポストには、さくらのモノローグで以下のような説明があります。
お母さんは十六歳のときに二十五歳のお父さんと結婚したんだって
16歳ってことは 高校生だよね
つまり、さくらの父が、9歳も年下の未成年だった母と結婚したことを問題視しているようです。
このポストはほんの一日で、18万イイネ、1.6万のリポスト、1001の返信、1.5万のブックマークを得るほどバズってしまいました。

ただ、この元のポストはあくまでも「顔が引き攣った」としか表現しておらず、それはただの「咄嗟に沸いた感情」の表現でしかありません。
ネガティブな感情であること自体は確かですが、それ以上過度に否定したり煽ったりしたわけではないので、このポストだけで過剰に「CLAMP作品を否定された」と反応するのは少し行き過ぎだと思います。
昔の作品や個人的に合わない作品、もしくはそこ単発の自分には合わない表現に「顔が引き攣る」程度のことは誰しもあることなので、ポスト主を責めるのはおやめいただきたいと願います。
『カードキャプターさくら』の恋愛相関図
『カードキャプターさくら』の恋愛模様多様っぷりに対する様々な見解の前に、その多様っぷりを一度整理しておきましょう。
カードキャプターさくらには様々なキャラクターが登場し、前世なども絡んで人間関係は複雑なのですが、ここではあくまでも現世での恋愛関係だけに絞って説明します。

- 桜 兄桃矢の親友雪兎に片思い(7歳差・異性愛)(物語終盤、小狼と両思いに)
- 小狼 雪兎に片思い(7歳差・同性愛)(物語終盤、桜と両思いに)
- 知世 桜の親友。桜に片思い(同い年・同性愛)
- 桃矢 桜の兄。雪兎と親友、後に両思いに(同い年・同性愛)
- 藤隆 桜と桃矢の父。撫子(当時16歳の教え子)が在学中に結婚(未成年相手の9歳差・異性愛)
- 園子 知世の母であり、桜の母撫子の従姉。撫子に片思い(同年代・同性愛)
- 歌帆 桜の担任。教育実習中に当時中学生の桃矢と恋人関係に(未成年相手の年齢差・異性愛)
- 千春・山崎 桜のクラスメイト。5歳の頃からの幼馴染兼恋人同士(同い年・異性愛)
以上は、原作漫画・アニメほぼ共通の設定。
例外として、アニメオリジナルキャラの以下の設定もあります。
- 苺鈴 幼馴染の小狼の婚約者を自称(同い年・異性愛)(後に失恋)

以下は、アニメ版では改変されぼかされた原作漫画の設定です。
- 利佳 桜のクラスメイト。担任の寺田先生と両思い(未成年相手の年齢差・異性愛)(アニメ版では利佳の片思いに改変)
- エリオル 桜のクラスメイト。クロウカードの創始者クロウの生まれ変わり。イギリス帰国後、歌帆とも同居(未成年相手の年齢差・異性愛)
ただし、作品独自の設定を鑑みなければいけない恋愛も含みます。
例えば、最初は雪兎に惹かれていた桜と小狼の恋心。
これ、実は強大な力を秘めている雪兎の「力」に惹かれ、共にいると心地好くなる(桜曰く「はにゃ~ん」となる)感情を「恋愛」と捉えていたことが後にわかります。
まだ恋愛経験の無かった二人にはその明確な差がわからなかった…まだ恋に不慣れな人(多くは若者や子ども)の淡い初恋と重ねた描写をしたかったのでしょう。
また、クロウの生まれ変わりであるエリオルも、姿かたちこそ桜たちと同年齢で同じクラスに通いますが、原作では配下のスピネルに「同級生として傍にいられるように、さくらと同じ年のままでずっと待っていた」と言及されていること、2年以上前に歌帆と出会っていることなどから、あえて身体年齢を止めているだけで、実年齢は上であることが示唆されています。
『カードキャプターさくら』の恋愛模様が多様な理由

このように、『カードキャプターさくら』は、今回の話題に火をつけた桜の両親だけでなく、多数派ではない属性を持つ恋愛描写が多く描かれています。
そのため、今や話題は桜の両親に終始せず、「年齢差」「先生と生徒」「異性愛」等、多岐にわたる多様な恋愛模様全般に対するものへと広がり、収拾がつかなくなっています。
その中で言及された『カードキャプターさくらの恋愛模様が多様な理由』には、主に以下のようなものがありました。
連載開始当時は寛容だった?
『カードキャプターさくら』が連載されたのは、1996~2000年。(続編の『クリアカード編』は2016~2024年ですが、この記事では、設定が構築された『クロウカード編』『さくらカード編』に絞って話します)
この頃は、女性は16歳から結婚することが可能だったため、少女漫画でも「16歳の結婚」というテーマは「実際にあり得るが、珍しい」ために想像をかき立てるのか、人気テーマの一つでした。
また、主人公の親、特に母親をできるだけ若く設定したがる風潮が強く、16歳で結婚している設定の母親キャラは多くいた気がします。

「先生と生徒」というテーマも、「大人たちに反対されやすい」反面「大人との恋愛に憧れる未成年」からの人気があり、いわゆる「周りに秘めなければいけない恋」の一種として人気テーマの一つでした。
アニメやマンガだけでなく、ドラマでも珍しくなかった気がします。
そんな背景があるため、桜の両親に限って言えば「人気テーマの合わせ技」として、今ほど拒否感は強くは無かったと思います。(個人的なものとしてはともかく、少女漫画読者層全体の反応として、という意味で)
ただ、それはあくまでも16歳が「結婚可能な年齢」だったから。現実にあり得ることを悪しざまに言うことへの配慮が働いているが故のことです。
当時から、成人が中学生や、ましてや小学生を恋愛対象とすることは、さすがに驚かれ、ネット上でもよく(ネガティブな意味合いで)話題に上がっていたと記憶しています。
それも、どちらも「教師と生徒」です。生徒が教師に憧れるのはともかく、教師が生徒を恋愛対象として扱う事には嫌悪をあらわにする人の方が圧倒的多数派でした。
ターゲット層が小学生女児だから?
『カードキャプターさくら』が連載された雑誌は『なかよし』。
少女漫画の中でも低学年~中学年がメインターゲットのような印象がありました。(中にはCLAMP作品やセーラームーン、一時は柴田理恵先生等、責めた作品も多くあったので一概には言えませんが)
年齢差恋愛、「教師と生徒」間恋愛が多く盛り込まれたのは、読者層の年齢に合わせてのことでは無いか、という意見も多くありました。
しかし、高校生はともかく、中学生や小学生と教師の恋愛ものは、小学生向けの漫画でも記憶にないので、少なくともメジャーなテーマでは無かったと思います。
アニメ化した時も、桃矢と歌帆の『中学生と教師の恋愛』はサラッと示唆されましたが(本当にサラッと)、
『小学生と教師の恋愛』は排除されたので、やはりアウトだったのだと思います。
CLAMP作品は恋愛観が独特
ファンに多くある解釈として「CLAMP作品だからね」というものがある。わかる人は、これだけで伝わる。
同人誌からデビューしているCLAMP作品は、商業誌に無い「世間一般にはタブー視されるものも積極的に取り入れる」という姿勢がかなり強い、という傾向が一貫してあります。
なので、年齢差も同性愛もエロもグロも今さら。むしろ、それらが全くない作品は無いのでは? タブー色の皆無なCLAMP作品なんて求めていない。……というほどの風潮が根強くあります。
初めてCLAMPが『なかよし』で連載を持った作品は『レイアース』でしたが、連載開始当時、「あのCLAMPが小学生女児向け漫画雑誌で連載して大丈夫!?」と心配する声がかなりあったのを覚えています。
世間的にタブーなものを含んでいても、それを含んでいなければ書けない愛や物語を見せてくれる、実力で周りを黙らせファンを獲得してきた漫画家チーム。それがCLAMPなのです。

とくに『カードキャプターさくら』は、「登場人物全員が善人」と言われるほど、自己満足で動くキャラクターがいないため、恋愛模様も「相手を意図的に軽んじたり傷つけたりすることが絶対にない」と思わされる人間たちだけの中でのものなので、驚くほど人間関係に暗い感情が入りません。
個人の中で葛藤はあっても、片思いキャラは全員がそれぞれの心情に合わせて引き際を見極め、相手の幸せを優先させていく、最初はそうでなくても最終的にそこまで成長する。
両思いキャラも決して自分勝手な要求などせず、互いを思いやり、尊重し、よりよい未来を目指していく。
むしろ、それぞれのキャラクターが理想的な恋愛像を体現してみせてくれます。
また、CLAMP作品はスターシステムといって、作品を飛び越えて同じキャラクターが別設定(一部のキャラは同設定)で別の物語に介入したりすることが多く、そのときに年齢等が変わることもままあります。
しかし、一度定められたカップリングは、他作品で別設定になっても必ず惹かれ合うのです。
CLAMP作品全体に、「年齢や性別は後天的な要素であり、互いの年齢性別その他設定が変わっても、魂と魂が惹かれ合う」というメッセージがあることが、複数作品を読むとわかるので、CLAMPファンは年齢差や性別「はあまり気にしなくなっていたりするのです。
SDGsだLGBTだ多様性だと掲げるずっと前から、当たり前にそれを体現してきたのがCLAMP世界だ、と受け取っているファンも多いのではないでしょうか。
単純にCLAMP先生たちの性癖?
しかし、CLAMP先生たちの同人面を知るファンは、似て非なる意見を上げています。
曰く「単にCLAMP先生たちの、同人作家としての性癖を作品に消化しているだけ」だ、と。

『カードキャプターさくら』は、やはり掲載誌を意識してか、極端にきれいな世界、きれいなキャラクター、きれいな話でまとまっていますが、(それで話をまとめられるのはやはり、実力がすごいとしか言えませんが)
CLAMP作品の多くは、かなりドロドロにこじらせたエログロ愛憎劇。
このアクの強さは、同人誌出身ならではと言わざるを得ません。
また、CLAMP先生たちが『ジョジョの奇妙な冒険』第3部の空条承太郎と花京院典明のカップリングに傾倒していたことは、そちら方面のファンの間では有名らしく、
そこから着想を得たイメージを作品に生かしている、CLAMP作品はこのカップリングの隠語でしかない、という考察までありました。
いわゆる、空条承太郎を起因とするモチーフと花京院典明を起因とするモチーフを記号化し、それらを組み合わせて様々な形で作品内の人間関係を作っているのだとか。
最近では『ONE PEACE』のサンジとゾロにも傾倒し、それらの要素まで入って来たとか……
ちょっと驚いてしまう人も多いかもしれませんが、好きなモチーフを繰り返し作品に反映させる作者は少なくありません。
毎回幼馴染ヒロインが出るとか、毎回ヒロインの髪型やイメージカラーに共通点があるとか、腹部を露出する衣装にこだわりが強いとか、特定の部位の描き方にフェチ的なものがあったりとか。
それを考えると、要は「好きな要素をあらゆる形で作品に反映させている」ということなのかもしれません。
必ずしも正しくある必要はない
そもそも論として、創作物は必ず「正しくなければいけない」わけではありません。
タブーなもの、一般的には目をそらされ嫌悪されるようなものも、創作物の中だけでは自由であるべきだ、という人も多くいます。
今回火付け役になったポストはあくまでも「顔が引き攣った」だけなので、何かの作品に「顔が引き攣る」のももちろん自由。
誰かの「顔を引きつらせる」ような作品が存在するのも、同じく自由です。
……とはいえ、成人(しかも教師)が小学生に恋愛感情を抱くのはさすがに極端すぎますし、読者の中には作品の内容に憧れて盲目的に似た行動を取る人もいますし、逆にその心理を利用する加害者もいるため、子ども向け作品の場合はある程度の配慮が必要では無いか、と私自身は心配になってしまいますが、
善悪だけで作品を決めつけることに危険があることは確かでしょう。
『カードキャプターさくら』炎上のまとめ

主人公木之元桜の両親が、当時、教師(25歳)と高校生(16歳)の間柄で結婚していた、という設定に現代読者が「顔が引き攣った」というポストが火付け役になった今回の炎上騒動。
そもそもCLAMP作品は年齢差、異性愛等のマイノリティな恋愛を積極的に描くものが多く、その受け取り方は様々ですが、
連載当時もすでに話題になり、驚かれ、ひく人も多くいたことは勘違いしないでほしいと思います。
様々な意見がありますが、『カードキャプターさくら』はあえてそれらの設定を取り入れ、メッセージを込めた作品ですので、
決めつけや思い込みで断定せず、一度作品を手に取ってみて、そのメッセージを読み取ったうえで判断していただきたいと願います。