松本理恵氏は、アニメの演出や監督をされてきた方です。
専門学校卒業後、演出助手などで場数を踏み、25歳で早くも監督デビューをしたことから注目されましたが、実は携わった作品は多くありません。
作品に対して「意味が分からない」という評価もあれば、ブランク期間が長いために夜逃げの噂まで……
しかし、松本理恵監督作品は、隅々まで隙がなく、情報量が多く、キャラクターの魅力を最大限に生かしてくれる魅力あふれる作品が多いのです!
ここでは、『血界戦線』がきっかけで松本理恵監督作品に惚れこみ、松本理恵監督作品を全部履修した私が、松本理恵監督作品全部ご紹介します!
松本理恵監督作品紹介
松本理恵監督は、2006年『ふたりはプリキュア Splash Star』で演出助手としてデビューして以降、2009年まで毎年演出助手・演出としてプリキュア作品に参加してこられました。
映画 ハートキャッチプリキュア! 花の都でファッションショー…ですか!?

2010年度のプリキュア「ハートキャッチプリキュア!」の単独映画作品『ハートキャッチプリキュア! 花の都でファッションショー…ですか!?』。
キャッチコピーは「ハートの輝きが世界を救う!」、「みんなの”こころの花”のパワーが、映画館にキセキを起こしちゃいますッ!」。
松本監督が、はじめて単独で監督を任された作品です。
プリキュア作品に女性監督を起用するのも初めてだったそうです。
あらすじ

つぼみ、えりか、いつき、ゆり達がパリに訪れるところから話が始まります。
えりかの母さくらが今回パリで開くファッションショーで、ファッションモデルとして参加することになったため同行してきたつぼみたち。
しかし、そのパリでは今、伝説上の怪物「狼男」が現れるという噂がささやかれていました。
一方、その頃、砂漠の使徒・サラマンダー男爵を「父さん」と呼ぶ少年(オリヴィエ)が、サラマンダー男爵の力の源「クリスタル」を持って逃げ出していました。
ケガを負いながら逃げる途中、つぼみに遭遇した少年は、サラマンダー男爵の力によりデザトリアン化。それを、つぼみ、えりか、いつきに救出され、匿われることになります。
タイトルに反して、華やかさよりストーリーに重きを置かれた作品
花やファッションをテーマとした『ハートキャッチプリキュア!』の映画は、サブタイトルで「花の都」「ファッションショー」を前面に押し出しています。
確かに舞台は、凱旋門、モンサンミッシェル、エッフェル塔などを盛り込んだパリ以外の何物でもないものの、
蓋を開けてみれば、オリジナルキャラはボロボロの少年と、顔の片側を仮面と髪の毛で隠した怪しげな男爵。
その実態は、400年前のデザトリアンと孤児の疑似親子関係、砂漠の使徒にもプリキュアにも憎しみと絶望を抱え、全てを破壊しようとする養父と対立する少年、しかしその少年もすでにその養父の手によって狼男になる体に変えられていて人間には戻れない――と、ストーリーも絵面も重たいものが続き、結構驚きました。

ファッションショーも、話の中では準備段階で終わってしまい、エンディングでようやくのお披露目。
当時の女児たちの反応がちょっと心配ではありますが、意外と重たいストーリーを含むこともあるプリキュアの映画作品の中でもトップレベルと称賛する人も多い人気作品です。
個人的には、話がしっかりしており、キャラクターも立っていて、とても楽しめました。
松本監督作品に共通する、表情や仕草の丁寧さと、思い切ったカメラワークのアクションシーン、スタッフ紹介が背景におしゃれに組み込まれる演出、つかみどころのない詩的なセリフ回しなどがすでに生き生きと発揮されています!
ちなみに、中世ヨーロッパでは教会によって有罪とされ追放刑にされた者を『狼』と呼んでいたことが『狼男』の原型とも言われています。
社会や共同体から排除された人、ということですね。
松本理恵監督はモチーフについて事細かに調べ、作品に反映する方なので、狼男の背景とサラマンダー男爵・オリヴィエとを重ねたのかな、と解釈しています。
京騒戯画

松本理恵監督とバンプレスト、東映アニメーションが大々的にタッグを組んだアニメーションプロジェクト『京騒戯画』。
最初はWebアニメとして、2011年12月に第0話(松本理恵氏は監督)を配信。
その後、2012年8月に第二弾(全5話)(松本理恵氏はシリーズディレクター)と公開し、第一弾・第二弾合計で100万回再生を記録しました。
その人気を受け、2013年の秋アニメとして、再編集したものを全13話で放映するに至ります(松本理恵氏はシリーズディレクター・シリーズ構成)。
あらすじ
毎話の冒頭でしつこく繰り返されますが、この作品は家族愛の物語です。
かなり仏教よりではありますが、神だの仏だの絡んでくる世界観の中で生まれた、ある家族の物語。
父の明恵上人は、京都の高尾山に隠棲する僧侶。
明恵上人は描いた絵を実体化させる能力があり、その内の黒兎が明恵上人に恋をします。
彼女の思いは仏眼仏母に届き、その姿を借りて上人の妻古都となりました。
上人と古都。一人息子と、彼の兄姉とするべく絵を具現化させた鞍馬と八瀬。5人で睦まじく暮らしていましたが、上人の能力を問題視する人々によって立場が苦しくなり、家族は上人が襖に描いた世界『鏡都』に移り住むことになります。

京都に似ていながらも、ファンタジーな要素のある世界『鏡都』での家族の暮らしは長くは続かず、ある理由から、ある日、上人と古都は子どもたちを置いて他の世界へ行ってしまいます。
一人息子に「終わりと始まりを連れて帰ってくる」と約束し、不思議な数珠を託して。
残された三兄弟で『鏡都』を護りながら両親の帰りを待ち続けていましたが、三兄弟がすっかり大人になったある日、外の世界からコトがこの世界に舞い込んで、話が動き出します。
話を追うにつれて少しずつ明らかになるストーリーと設定

2025年8月現在、Webアニメ版を見る方法は無いので、テレビアニメ版を視聴したのですが、第0話ではストーリーが全くつかめず、ポカンとしてしまいました。
ただ、0話はとにかく画的な魅力だけを詰め込んでいると言ってもいいでしょう。
透明な中にカラフルな球体が入った不思議な巨大ハンマーを扱う少女コトが、京都のようでいろいろとおかしい町鏡都で、街のお偉いさんに無理難題を吹っ掛けられて、巨大ロボットと交戦し、パクリと食べられてしまうという顛末。
当時の反応も「意味が分からない」というものが多かったようですが、意味が分からないのに「なんか面白い」と続編を望む声も多くあったというのが、さすが松本監督というか。
松本監督作品は、表情も仕草もアクションも、とにかくよく動くので、動画作品として一度見始めると目を離せなくなってしまうという魅力があります。
そんな中にちりばめられる、もったいぶった詩的なセリフ回しは、刺さる人には想像をかき立て「もっとよく知りたい」と思わせてしまう力がある。
第0話は意味は分かりませんが、松本監督作品の魅力を濃厚に詰め込んでいることは間違いありません。
そして、この意味の解らなかった第0話に向けて、第1話から改めて話が始まるのです。
すべては、大団円のために!
血界戦線(一期)

人気漫画『血界戦線』のアニメ版ですが、原作ファンも初見は驚いたのではないでしょうか。
かなり尖っているのに大人びた落ち着きを感じさせる背景美術を、アーティスティックに切り取る画面構成。
お洒落な音楽。原作よりもシリアス寄りに格好良く描かれるキャラクター。
そして、思い切ったアニメオリジナルキャラクターとその話。
とにかく、どこもかしこもおしゃれで完成度が高く、特にEDの「シュガーソングとビターステップ」だけでも二次動画と二次創作がネット上に溢れ祭り状態。今でも語り伝えられるほどです。
キャスティングも「原作通り」と言いたくなる配役しかなく、それも全員松本監督自身のご指名だったと聞いて「ありがとうございます!」と五体投地するしかありません。
あらすじ

舞台は、元・紐育『ヘルサレムズ・ロット』。
3年前に起こった天変地異『大崩落』によって、異界と人界が交わる街に作り替えられてしまった、世界の危機が日常茶飯事のような街です。
『大崩落』によって街の真ん中に開いた巨大な穴は異界と繋がり、そこから溢れる霧の中は異界人がはびこる、不思議な共生生活が営まれています。
ある目的でこの街に住み着いたレオナルド・ウォッチは、様々な偶然を経て、世界を巻き込まんとするこの街のトラブルに立ち向かう秘密結社ライブラのリーダークラウス・V・ラインヘルツと出会い、組織の一員となります。
そして、ある日、ケガで入院した病院で、ホワイトという少女と出会い、友だちになります。
渾身のアニメオリジナル!

全12話中、10話の途中まではほぼ原作通りの話が描かれますが、要所要所に挟まるアニオリ厄災キャラ「ホワイト」、その兄「ブラック」、そして13王の一人「絶望王」の三人が、やがて最終話を中心に大きな厄災へとヘルサレムズ・ロットを巻き込んでいきます。
アニオリというと扱いが難しく、それをクライマックスに持ってくるのはかなり意見も分かれますが、
まだ10巻までしか刊行されていなかった原作のその後と齟齬が出ないよう、監督が原作者としっかり打ち合わせをした上で臨んだ渾身のアニメオリジナルは、今も多くのファンを魅了してやみません。

当時は原作に登場していなかった術士協会LHOSや、異界からの霧をヘルサレムズ・ロット内に収めた術士たちによる封印等、かなり大胆に勝手なことをしたアニオリだと批判する人もいましたが、
実は、現在第3部に突入した原作『血界戦線 Beat 3 Peat』第1巻(第1部に当たる『血界戦線(無印)』から通算すると、21巻目)からようやく大崩落の裏側にもスポットが当たり始め、その中にLHOSや街の封印の話も出てきたことから、松本監督は原作者の設定にかなり忠実にアニメオリジナルを作っていたことがわかってきました。
キャラクターデザインも原作者によるものですし、原作への逆輸入を望むファンも多く、未だにファンアートや二次創作が作られるほどの熱を保持しています。
ただ、放映当時(2015年春アニメ4月~6月)、最終話が放映枠の30分におさまりきらなかったことから、急遽、総集編でいったんお茶を濁す形で最終話の放映を延期。視聴者を待たせることになってしまいました。
46分に拡大した最終話を放映できたのは、10月4日。
ただ、最終話がハロウィン(10月31日)の日の出来事であるため、現実の日付と近くなったのは返って良い演出になったと個人的には感心していました。
何より、3カ月以上待たされた甲斐のある、妥協のない46分は、サブタイトル通りOP曲『Hello,world!』をかなり意識した物語にもなっており、初めて見たときのカタルシスがすごく、アニメ史上屈指の最終回だったと思っています。

しかし、ハマる人にとっては魅力的ではあったものの、最後まで明かされなかった設定も多く、事の中心人物であった絶望王が謎めいたセリフ回しばかりでその真意もつかみどころが無かったこと等、合わなかった人もいたようで、悪しざまな誹謗中傷もあったことは事実です。
理由は明らかになっていませんが、これを最後に、松本監督は長いことアニメ作品から離れることになってしまいます。
ロッテ×BUMP OF CHICKEN「ベイビーアイラブユーだぜ」
2017年に放映されたアニメ二期『血界戦線 & BEYOND』の監督が高柳滋仁監督に変わっていたこともあり、音沙汰の無い松本監督に「夜逃げしたのでは」など失礼なような心配の声も上がっていましたが、
2018年、ロッテ創業70周年企画『ベイビーアイラブユーだぜ』にて、BUMP OF CHICKENとコラボしスペシャルアニメーションを製作、発表し、話題になりました!

BUMPには珍しくポップなラブソングに合わせて展開される、表情豊かな恋愛模様。
背景に歌詞がおしゃれに組み込まれながらも、肝心のロッテ商品が次々と擬人化、キャラクター化され画面に登場し、情報量が多すぎて気圧されてしまうような場面構成。
3分43秒と短い中にありったけのものを詰め込んだ、まさに、松本理恵監督! と唸らされる動画になっています。
実は松本理恵監督、血界戦線に携わる前からの生粋のBUMPファン。
血界戦線のOPも、最終話も、BUMPの曲に対する解像度がすごく高いことに定評がある方でもあり、
このコラボがさらに、次の伝説を生みました。
ポケモン×BUMP OF CHICKEN スペシャルMV「GOTCHA!」
もはや、伝説と言っても過言ではないでしょう。
ポケモン25周年に当たる2020年。
『ポケットモンスター ソード・シールド(以下『剣盾』)エキスパンションパス』最新情報の最後に初めて発表されたこのMVは、瞬く間に世界中を虜にしました。

それというのも、いわゆる大衆にイメージされるアニポケではなく、あくまでも原作ゲーム「ポケットモンスター」作品の今までのシリーズキャラクターとメインポケモンを所せましに登場させたこのMVは、一度でも「ポケットモンスター」に触れたことのある人が「あ!」と思ってしまうシーンを選りすぐり、キャラクターの表情や仕草も「まさに!」と思わせるものばかりで、
それぞれの登場順も、他作品キャラとの絡ませ方も、シーンの入れ方も、全てに意味がある。
それだけでなく、MVはMVで一つのストーリーがあり、
その上、それに合わせたBUMP OF CHICKENの曲『アカシア』にも忠実に沿っている。
ファンからすれば、瞬きしていい瞬間が一瞬も訪れない3分15秒。
この動画が発表されてから連日、Youtubeも各SNSもお祭り騒ぎの一方、考察に励む人たちの嬉しい悲鳴も上がり続け、すごい盛り上がりでした。
この動画が恐ろしいのは、初代『ポケットモンスター 赤/緑』が発売された2月27日、いわばポケモンシリーズの誕生日が訪れるたびに毎年、ファンが足しげく通い、SNSのトレンドを飾ることです。
もはや、ポケモンシリーズを祝うときには欠かせない相棒となり、愛され続ける映像作品。
松本理恵監督作品のまとめ

こだわりが強く、情報量の多いことが特徴の松本理恵監督作品。
しかし「こだわりが強い」と言っても決して堅苦しくなく、むしろ画面から飛び出るほど生き生きとした映像作りが魅力です。
それは、下調べや打ち合わせの密度の高さに裏付けられたもの。
謎めいたセリフ回しや、設定を全ては明かさない回りくどさから「意味が分からない」という評価もあったりしますが、
それは、映像の隅々に計算されて配置されたものをどうくみ取り、どう受け取るのかを視聴者に任せる懐の深さによるものであることが、短い動画作品で立証されたように思います。
具体的なことはまだ明かされていませんが、コロコロコミック『運命の巻戻士』のアニメ監督として名を上げられた途端、SNSの各所から松本理恵ファンがよみがえり、喜びの声が多く上がっていることからも、その実力と人気の高さは確かなもの。
今後のご活躍を心より期待しております!