シイコ・スガイは、『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』第4話『魔女の戦争』に登場したキャラクターです。
丸くつぶらな黒い瞳に、黒のマッシュルームカット、と、地味な出で立ちながら、たった1話で大きな反響を得、SNS上では丸々1週間、シイコ・スガイの話でもちきりだったと言っても過言ではなかったのではないでしょうか。
なかには「歴代のガンダムキャラの中でも上位に躍り出た」という人、「一話限りの登場ではもったいない」と二次創作を希望する人、もしくは宣言する人等、多くの人たちの情緒を乱し、さらって行ってしまったシイコ・スガイ。
これほどの影響力を与えたシイコ・スガイは、どんなキャラだったのでしょうか。
恐らく、少なくとも今後『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』を語る上で避けては通れないキャラクターとなるため、ここでシイコ・スガイについてまとめます。
シイコ・スガイの概要
シイコ・スガイは、今でこそ退役し、サイド6のパルダにて結婚。一児の母となっていますが(スガイは結婚後の姓)、ジオン独立戦争時には地球連邦軍のパイロットとして活躍していました。
軽キャノンに搭乗し、100機以上の敵モビルスーツを撃墜したため、『魔女』の異名のついた有名なスーパー撃墜王(ユニカム)。
そんな彼女が、なぜか主人公アマテ・ユズリハたちの住むイズマ・コロニーにあるジャンク屋「カネバン有限公司」を訪れるところから、彼女の物語が始まります。
第4話あらすじ
「カネバン有限公司」の経営者アンキーと古い知り合いだというシイコは、最近、クランバトルに出没する「赤いガンダム」の情報を求めて来ていました。
何故なら、シイコの最初のマヴを撃墜したのが、シャアの搭乗していた「赤いガンダム」。
消えたはずの赤いガンダムがクランバトルに現れたことを知り、彼女は自分の手で赤いガンダムを倒すべく、戦場に戻ってきたのです。
「カネバン有限公司」がクランバトルチーム「ポメラニアンズ」を保有すること、しかもそのチームに赤いガンダムを駆るシュウジが所属していることはシイコには明かしませんでしたが、
シイコは何故か、ただの「バイト」だと言い張っていたアマテがシュウジのマヴである確信をアマテにチラつかせながら、帰っていきます。
それは、事実上の宣戦布告。
アマテたちが次にシイコ(登録名「MAMAMAJO(ママ魔女)」)に再会したのは、クランバトル上でのことでした。

初戦以降、4戦4勝と無敗で突き進んできたアマテとシュウジですが、駆動系摩擦キャンセル技術(初代ガンダムの「マグネットコーティング」と同意?)で専用のカスタムを施したgMS-01ゲルググを操るシイコは、まさに『魔女』の名に恥じぬ動きで二人を翻弄します。
特に、経験の浅いアマテは頭を踏みつけにされ、足元にも及ばないこと、シイコにとって赤いガンダム以外眼中に無いことを思い知らされます。
アマテからすれば、才能も経験も十分にあるように思えたシュウジも、シイコの「スティグマ攻撃」に翻弄され、孤立させられます。
スティグマ攻撃とは、ジオン軍には解明しきれてはいませんでしたが、敵機の機体に小型ワイヤーフックを打ち込み、そこを支点に遠心力を使って瞬間的な急加速と軌道変更による立体的な攻撃及びかく乱を誘う、まるで曲芸のような戦法です。
『進撃の巨人』の立体機動装置を想像するとわかりやすいかもしれません。
シイコに撃破された機体には必ずフックの独特の傷跡(スティグマ)が残ることから「スティグマ攻撃」ひいては『魔女』の異名が生まれたようです。
しかし、彼女のスティグマ攻撃の負荷に機体が耐え切れず、戦闘終盤に左腕が破損。
それでもかまわずビームサーベルを振り下ろした先に、捕らえたはずの赤いガンダムは無く、
いつの間にか後ろを取っていた赤いガンダムにコックピットを貫かれてしまいました。
左腕破損の前に、ニュータイプ的感覚でシュウジからのメッセージが届きます。
コックピットを貫かれるときも、シュウジと感覚を共有する中で、シュウジの望むすべて、ガンダムの向こう側に誰かがいることを感じ取ったシイコは、なぜか最愛の息子を思い浮かべ、どこか満足げに爆破に巻き込まれました。
シイコ・スガイの考察
第4話放映後、SNS上はシイコ・スガイに情緒を乱された人たちの心情の吐露で埋め尽くされました。
彼女の何がここまで見る人たちの心を揺さぶったのかを探っていくと、彼女のキャラクターが様々な二律背反を内包していることと、様々なキャラクターと対比になっていることの二つが大きな要素では無いか、と思えます。
ギャップ要素盛りすぎ?
シイコ・スガイに対する視聴者の共通認識は「ギャップの激しさ」では無いでしょうか。
ぱっと見、こけしのような風貌は、朴訥(ぼくとつ)とさえ感じさせるかわいらしい印象です。
下手すれば、モブキャラとしてひっそりと最後まで生き続けてしまってもおかしくないようなキャラデザ。
さらに、一児の母と聞けば、日々家事に育児に勤しむ良妻賢母な姿が簡単に想像できるような、母性と生活感を感じさせる外観。
実際、アマテたちが最初話したとき、おっとりと優し気なふるまいも相まって、まさかジャンク屋に用があるような人には思われていませんでした。

ところが、その戦績は、100機を撃ち落とした戦場の魔女。
その戦術は、相手を翻弄しながらも決して逃さない、執拗なスティグマ攻撃。
ニュータイプであることを期待した最初のマヴが死に、マヴを撃破したシャアまで不可解に姿を消したことで「ニュータイプはジオンのプロパガンダ」と、一時は夢見たはずのニュータイプの存在自体を全否定。(ここに、思春期特有の「自分は特別(になりたい)」という意識や無敵感の挫折を見る人もいます)
むしろニュータイプを「望むものすべてを手に入れる、選ばれた人」と憎悪すら抱いていたのに、シュウジとの戦闘によって、実は彼女自身がニュータイプであることが確かになる。
柔らかな物腰と控えめな見た目に反し、実績のある自信家であり野心家。
「この世界は結局理不尽で、望むもの全てを手に入れる選ばれた人なんていない」と、マヴやシャアの死亡を一時は受け入れ、(一般的な幸せとされる)家庭と子どもを得ますが、
赤いガンダム(シャアかもしれない)の登場により「何かを手に入れるために何かを失うなんて、そんなの理不尽じゃない?」という、心の底にあった憤りに突き動かされ、戦いの中に再び身を置くなど、本人自身が相容れない二律背反に振り回され、傍から見れば必要性のない自傷行為のようにも見えてしまう戦いに身を投じ、散ってしまった。

そこに、戦争に適応しPTSDやアドレナリン中毒に苦しむ帰還兵問題を見る人もいれば、
「どれだけ子どもを愛しても満たされない、夢やキャリアを失う恐怖や後悔」など、家庭や育児のために多くのものを犠牲にしなければいけない社会問題を見る人もいる。
一人に集約するにはあまりにも相反するものを抱えすぎており、だからこそ「赤いガンダムと戦わなければ納得できない」ところまで追い詰められてしまった、彗星のように鮮烈で、矛盾しているからこそ血の通った人間を感じるキャラクターとなりました。
他キャラとの対比
シイコ・スガイは、本人の中に多くの矛盾を抱えるだけでなく、様々なキャラクターとの対比や共通点も指摘されています。

アマテの母
まず、『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』本編の中でわかりやすく対比されたのは、主人公アマテの母親です。
進路希望に「クラゲ」と書いたことを咎(とが)める母親を「普通」だとけなし、落胆するアマテ。
アマテの母親は、初登場時からいたって常識的で正しく、アマテのことも気にかけ心配し、コミュニケーションも取っているのですが、アマテにとっては「普通でつまらない」と煩わしい存在として描かれています。
しかし、突然現れたシイコは、アマテの母と同じく「母親」でありながら、実は戦場の英雄であり、ガンダムに宣戦布告を叩きつけ、ほしいものすべてを手に入れようとする野心家。
アマテはシイコに羨望のまなざしを向けるのでした。
アムロ・レイ
初代ガンダムの主人公アムロ・レイとの対比や共通点を上げる人も多くいました。
一年戦争の終わりに「帰る場所」に帰ることができたアムロと、
独立戦争の終わりに家庭(帰る場所)を作り、我が子を愛しながら、心を戦場に残して、また戻ってしまったシイコ。
また、シイコのスティグマ攻撃の一端である置きビームガン戦術の理屈が、『逆襲のシャア』のアムロのワイヤートラップ、ワイヤーバズーカと理屈が同じであると指摘する人もいました。
モデルはクラウレ・ハモン? ランバ・ラル?
初代ガンダムのランバ・ラルと、その内縁の妻クラウレ・ハモンとの共通項を指摘し、シイコ・スガイのモデルではないか、と指摘する人もいます。
まず、MS搭乗時に首に巻いていた赤いスカーフは、たしかにクラウレ・ハモンと同じもの。
主人公が惹かれた大人の同性、という意味ではランバ・ラルが該当。
そのランバ・ラルはたたき上げの軍人で、ガンダムに敗れ、
クラウレ・ハモンは敵討ちのためにガンダムに特攻しますが、背後を取られ倒されます。
また、クラウレ・ハモンがアムロを「ぼうや」と呼んでいたことも、シイコ・スガイを思わせます。
シイコ・スガイのまとめ

突然現れ、主人公たちにも視聴者たちにも鮮烈な印象を焼き付けて散って行ったシイコ・スガイ。
相反する様々な激情に振り回された悲しさには、帰還兵問題や現代の社会問題も見え隠れしますが、
最後に、シュウジとの邂逅でその激情から解放され、息子を想う母に戻れたことは、彼女にとっての安らぎであったと思いたいです。
第4話にもう、こんな話とキャラクターが出て来てしまうなんて、今後が怖いですね、ジークアクス!